Perinatal Pediatric Space Medicine association (PPSM)

宇宙医学って何? 宇宙医学は究極の予防医学!?

宇宙医学学会

宇宙医学って何? 宇宙医学は究極の予防医学!?

宇宙医学とは,

  • 【地上とは全く異なる宇宙環境で人体にどのような変化が起きるのか?】
  • 【その変化を軽減するにはどうしたらよいか?】

これらを調べて, 対策を研究する分野を【宇宙医学】と呼びます.人類が宇宙空間に飛び立って50年余り, 宇宙で起きる現象によって, 【人体のしくみの理解】や【加齢現象の対策】に役立つことが解ってきています.

【微小重力】は人間を老化させる!?

宇宙空間における【微小重力】は人間の体の中の水分・骨・筋肉に

大気圏を飛び立った宇宙飛行士はまず,体液(体の中の水分)が上半身に移動ます(体液シフト). この体液の移動が, 宇宙飛行士の3人中2人に, 地上の乗り物酔いに似た【宇宙酔い】を起こします.

そして,最も大きなな変化は【骨が弱くなること】です. ISS(国際宇宙ステーション)の中は重力がほとんどかからず, 泳いで生活ことができてしまうので, 骨が体を支える必要がなくなり,骨量の急速な減少が進みます.
これは【高齢者の骨量減少のスピードの10倍の速さ】と言われています.

また,体を支えるための背中や足の筋肉(背筋や下腿三頭筋など)が滞在中に10-20%も萎縮します.

つまり,宇宙では加齢と同じような現象が急速に進みます. いわば, 宇宙に行く宇宙飛行士は【高齢者モデル】です.そのため, 宇宙飛行士への対応策の研究は, 高齢化の進む現代に日本の医学にも還元することができます.
このことから,【宇宙医学は究極の予防医学である】と言えるのです。

宇宙飛行士が高齢者モデルになった実験

宇宙医学が高齢化社会の予防医学に貢献した1つの代表的な研究を紹介します.

宇宙飛行の骨量減少に対する初の薬剤投与実験(日米共同研究)です. 骨粗鬆症の治療薬(ビスフォスフォネート)が長期宇宙飛行の骨量減少リスクを軽減できるかを確認する実験です.

ISS滞在中に毎週経口薬を服用する or 飛行前に静脈注射を1回行うか, いずれかの方法で投薬し, 飛行前後に骨密度, 骨代謝マーカ, 尿路結石の検査を行い, 骨量減少の予防効果を検討しました.

この実験は寝たきりや加齢に伴う骨量減少リスクを薬剤によって軽減できるかを【地上より短期間】で薬剤効果を確かめられるというメリットがありました.
実際に2009年に宇宙飛行士の若田さんが約4か月半の宇宙滞在で週1回錠剤を飲み, 飛行前後に医学データ測定に協力されました.
結果として, ビスフォスフォネートは

  • 宇宙での骨量減少の予防に効果があり,
  • 骨の吸収を抑えて骨量と強度を維持,
  • 尿中のカルシウム排泄を抑えることで尿路結石のリスクを減らす

ことが確認されました。

宇宙医学が提案する小児の予防医学

では, 子どもが宇宙に行った場合の骨量減少対策はどうしたらよいのでしょうか?

先程のビスフォスホネート製剤は, 小児医学の領域では【骨形成不全症】や自己免疫疾患などの病気の治療に使うステロイドの長期使用に伴う【二次性骨粗しょう症】の治療のために用いられています.

しかしまだ小児の臨床適応になってから日が浅く, 有効性や安全性についてさらなる検討を重ねる必要があります.
また小児の宇宙での骨量減少の速度は未知であり, 成長過程の小児に適した薬剤の予防投与量についても今後考えていかなければならない課題です. 現段階では, 薬剤のみで小児の骨量減少の対策を行うことは難しいと言えます.

一方, 宇宙飛行士の骨量減少対策には薬剤・栄養・運動の3つのバランスが重要です. 適切な栄養, 効果的な運動, および薬剤を予防的に活用すれば宇宙飛行士の骨量減少は予防できることができます. 小児でいえば成長期における栄養や運動による日頃の体づくりは成人期の健康にも影響を及ぼし, そう遠くない将来の宇宙飛行のためにも習慣として身に着けておく必要があります.

この点に着目し世界では宇宙医学と小児の予防医学をリンクさせた【ミッションX】というプログラムがあります. これは8~12歳の学生を対象とした無料の教育プロジェクトで, 欧州宇宙機関 (ESA)と 英国宇宙機関 (UKSA)が推進しています.

「宇宙飛行士のように心身を鍛えよう」
をスローガンに, 宇宙科学者とフィットネスの専門家が世界中の宇宙飛行士や宇宙機関と協力して開発したプログラムは生徒たちが宇宙探査をしながら, 科学や栄養, 運動について学べる内容になっています.

年間を通して利用可能で年齢対象外のお子さんも家族で挑戦でき, 日本語の翻訳も付いています。中でも「ウォーク・トゥ・ザ・ムーンチャレンジ」はミッションXのマスコットのルナとレオが月に到達するのを助けるために, 各活動を通してポイントを集めるアクティビティがあり、毎年1月から5月まで開催されます.

興味のある方はウェブサイトこちらをご覧ください.
日本ではJAXAと杏林大学医学部 リハビリテーション医学教室ミッションX事務局がチャレンジ参加の窓口となっています.